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ベトナムハノイ、愛国心は誇りか支配か。建国の父ホーチミンの光と影

ベトナムを旅して強烈に感じたのは、人々の“愛国心”と“国への誇り”だった。街を歩けば、そこら中に国旗がはためき、Tシャツまで国旗のデザイン。ベトナム国旗🇻🇳の赤は独立のために流された兵士の血、真ん中の星の五つの角は「労働者・農民・知識人・青年・兵士」。つまり国を支えるすべての人を表していて、団結の象徴。偶然にも8月末は9日2日のベトナム建国80周年記念日に向けて町全体が赤色に染まるお祭りムード。

ホーチミンという建国の父

ベトナムでは建国の父・ホーチミン氏への尊敬も圧倒的。ホーチミン廟やホーチミン博物館では、家族連れが国旗を持って記念撮影をしていた。彼は若い頃に世界中を渡り歩き、思想や文化を学んだ。特に社会主義に感銘を受け、平等で公平なベトナムを作るべく当時宗主国であったフランスからの独立を目指した。フランス政府からは危険人物扱いされ、監視や投獄もされたが50もの偽名を使い分け、逮捕・処刑を避けるために密入国という形でベトナムに戻ってきた。その後、ベトナム独立同盟会を組織し、ベトナム革命を経てフランスからの独立を勝ち取り、ベトナム戦争ではアメリカにも勝利した。

渋さと優しさが混じった「こういう歳の取り方したいな」と思わせる表情は確かにカッコ良い。町中のいたるところに彼の写真が飾られ、人々は彼をホーおじさんと読んで尊敬している。そして、驚くべきことに、ベトナムの紙幣すべてにホーチミンの顔が写っている。

独立を勝ち取った国の誇り

ベトナムは隣国の中国やモンゴル帝国の攻撃を防ぎ、フランスの植民地となった後も戦い続けて独立を勝ち取り、アメリカにはベトナム戦争で国土は焦土となりながらも最後は勝利した。国旗の意味やホーチミンといった象徴が、人々の心に「自分たちは大国にも負けない」という誇りを刻んできた。

家庭や学校での教育、世代を超えた語り継ぎ、そして独立記念日のお祭り。こうした積み重ねが「国を大切にする」こと、愛国心を国民に植え付けているように感じた。

このような愛国心の強さがどう作用しているのかは観光レベルではわかりにくい。愛国心があるということは人生の根っこが強く、祖国を愛する心は自分以上の大きなもののために生きるきっかけとなるかもしれない。一方で自国中心主義となり、平気で戦争に突き進む力になるかもしれない。

光と影、愛国心は誇りか統制か

そして考えさせられることもあった。ベトナムの愛国心は“心からの誇り”なのか、それとも“一党体制による教育の成果”なのか。町中にはホーチミンの写真が掲げられ、人々が記念撮影している。ときに「神格化されすぎているのでは?党の広告に使われている?」と疑うほどだ。人々は心から望んで町中を国旗で埋めているのだろうか?政治・歴史・教育が愛国心を形づくっており、それは思想統制と言える面もある。

ホーチミンという英雄、大国への勝利、国をあげての建国記念日のお祭り騒ぎ。それは短期間観光に来ただけの私には愛国心の強さという光の部分だけが強調されすぎているようにも見える。愛国心とは権力者に都合が良い言葉で、国民は義務的に愛国心のあるフリをしないといけないのかもしれない。熱狂的にホーチミンに敬愛を示す人々を見ると、思想統制という闇の部分が隠れているようにも感じる。スターリンも毛沢東も金正成も紙幣に自分の顔を使って思想教育を行っていたからだ。はじめて一党体制の国家の危うさを感じた。光が強いところにはまた強い闇があるのではないかと感じたベトナムでした。

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